雪の滑り台【短い切ない話】
午後にはきっと、溶けてしまうだろう。
前日、一生懸命作った雪の滑り台はすでに柔らかくなりかけていた。
もう3月も終わりだというのに、驚くほど雪の積もった昨日。
僕と4歳の娘は、雪だるまを作り、かまくらを作り、ソリ滑りをし、雪の降らなかった冬を取り戻すかのように遊んだ。
「明日もやろう!」と娘は言ってくれた。
朝起きてからも、「今日はお父さんと一緒に雪で遊ぶ!」と楽しそうだった。
でも、朝ごはんを食べ、お着替えをし、歯磨きをするうちに、何かが変わってしまった。
やっと外で遊べる準備ができたのに、娘は
「昨日いっぱいやったから、やっぱりいいや!」と言いだした。
「急がないと雪が溶けちゃうよ」と、少し急かしたからかもしれない。
溶け始めていると言われたことで、濡れることを予想し嫌がったのかもしれない。
僕は仕事が溜まっていたから、雪が解ける前の朝の内だけ遊ぼうと思っていた。
がんばって作った雪の滑り台を、楽しんでもらえるのは嬉しかった。
心変わりは仕方ない。
4歳だろうと何歳だろうと、変わるときは変わってしまう。
急かさなければよかったのかな、と考える。
でも、そうしたらそうしたで、雪は溶けて、遊べなくなっていたかもしれない。
もしかしたら、いやきっと何度も、僕も自分の親に同じような思いを抱かせたのだろう。
親は、僕の幼い心と行動を、どんな風に受け止めていたんだろうか。
すまなかったなあ、と今になって思う。
「お父さんと一緒に雪で遊ぶ!」
ぼんやりとした悲しみの中で、そう言ってくれた娘の笑顔が浮かぶ。
もう一度、誘ってみよう。
あの雪の滑り台は、もう溶けてしまっているかもしれない。
溶けた雪を触るだけでも、違う遊びをするのでもいい。
でも、もう一度、誘ってみよう。
仕事を片付けて、もう一度。
僕は急いで仕事に取り掛かる。
結露した窓から、まぶしい光が射しこんでくる。
高く上った、薄曇りの太陽の光が。
※その後遊びました!

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